カイゼンとイノベーションは地続きである

改善活動とイノベーションは、実は連続しています。これまで改善とイノベーション活動の専門コンサルタントとして支援させていただいた経験から言うと、多くの場合、これらの活動が「全然違うもの」と語られることが多いですが、実際にはそうではありません。

ただ、改善がイノベーションに繋がるという事実を、支援を受ける側が真に理解しているかどうかは疑わしいものがあります。

特に製造業においては、コスト削減の意識に基づく改善活動が多く見受けられます。経験豊富な方々には多くの知見があるとはいえ、経営の観点から見た改善活動は本来、イノベーションに「地続き」にすべきであり、それほどのポテンシャルを秘めたものだということを改めて認識することが必要と考えます。

なぜこの話をしているかと申しますと、あるクライアントのこれまでの改善活動を見てきたからです。

改善活動の内容としては、例えば

・車の汚れや傷、凹みを自分たちで空いている時間を使って修繕

・金属製の階段の一部が欠けているのを修復

・業者に頼んで倉庫の壁を直してもらったりしています。

これらの活動は、目に見えるところを直していくことが行われていたわけです。

言い換えると、「特定の不具合箇所が存在し、その不具合箇所を修正するために、自分たちの持っている知識や経験、能力を生かし、それで補えない場合は外部からの協力を依頼して進める」というやり方です。これは実はオープンイノベーションの最も原型の形になっています。こういった活動が日々、日本の中小企業の現場で営まれているはずなのですが、それが特定のサークルやチームの中から広がっていかない、もっともっと大きくなっていかないというのは組織の問題です。

改善活動を、組織全体に展開できる企業が日本にはあります。その一例がトヨタ自動車です。

トヨタは、経営者たちがこれからの車の未来をどのようにしたいかというビジョンを持ち、そのビジョンが社員に浸透しています。社員はそのトヨタが描きたい未来に向けて力を合わせて改善活動を行っており、その結果、プリウスが生まれました。より少ないガソリンでより多くの距離を走行できる環境に優しい車、プリウスはイノベーションであると同時に、小さな会社の積み重ねが生み出したものです。プリウスの開発秘話については、また別の機会に説明させていただきます。

もう1つの例として、QRコードがあります。毎日目にするほど普及しているQRコードは、実はトヨタの関係会社であるデンソーが発明したものです。これは、世界で初めての二次元バーコードであり、トヨタ生産方式の改善運動から生まれました。

工場で情報共有のために使われている「かんばん」に表示できる情報には限りがあります。ですから、それを電子的に読み取り、より多くの情報を紐づけることができるよう、デジタルに置き換える必要がありました。その結果、QRコードが発明されました。現在ではQRコードは世界中の決済機能を担っています。

日常業務の中で生じる問題の解決が常にイノベーションに直結するわけではありませんが、組織がこれらの活動を適切に管理し、方針に位置づけることで、イノベーションを生み出すことが可能です。アメリカを中心に、世界中で日本の「カイゼン」は研究されていますが、現場での小さな改善の積み重ねが大きなイノベーションを生むとまでは考えられていません。アメリカでは、イノベーションと小さな改善の積み重ねは全然別物とされています。

しかし、現実に日本は改善の積み重ねで大きなイノベーションを起こしてきました。この分野の研究で先端を走っており、業務改善の重要性を忘れるべきではありません。

オープンイノベーションと改善の関係について書かれた本が最近登場しましたので、そちらのリンクをご案内いたします。(アフィリエイトリンクではありません)

日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか (岩尾俊兵・光文社新書)