SNSの情報を真に受けず、「話半分」で聞くコツ

疑惑のある投稿

先日、X(旧ツイッター)でこんなツイートを目にしました。

「友達は大学に入れず、花屋になった。しかし少子高齢化の影響で、葬式用の花が売れに売れていて、今は大儲けできている。人生はわからない」

(意訳)

あるインフルエンサーの投稿です。

一見すると、すべて筋が通った話のように見えます。

例えば…

  • 「友達が大学に入れなかった」という事実を確認することはできません。しかし、大学に入れなかった人たちは、事実として世の中にたくさんいます。
  • 「花屋になった」という事実を確認することはできません。しかし、世の中にはたくさんの花屋が営業しています。
  • 「少子高齢化の影響で」:少子高齢化は現在進行形で起きている社会問題で、政府の統計にも表れています。
  • 「葬式用の花が売れに売れていて、今は大儲けできている」:高齢者が多い社会なので、葬儀も増えているかもしれません。
  • 「人生はわからない」:そうかもしれません。

論理展開としては、あまり違和感がありません。

「有名大学を卒業しても、ブラック企業に勤めて病気になる人がいる。それに比べて、高卒で働きだしても、ビジネスチャンスをつかんで大きく儲けることができる人がいる」というメッセージ。

人によっては、ある意味で励まされているような投稿のようにも見えます。

しかし、よく考えてみてください。これは事実だとおもいますか?

「少子高齢化の影響で、葬式用の花が売れに売れている」というところに注目してみましょう。

ここは本当でしょうか?

少子高齢化や人口減少は、確かに日本の大問題です。

しかし、「葬式用の花が売れに売れる」ほど、死者の数が急速に増えているのでしょうか?

皆さんの周りで、ここ数年で一気に大量の高齢者がなくなるような事態がありましたか?

こちらは、日本の死亡者数と死亡率について、厚生労働省発表のデータを基に解説している記事です。

https://gemmed.ghc-j.com/?p=48153

この統計を見ると、死亡者数・死亡率は確かに増えているものの、「葬儀の件数が急増するほど」増えているようには見えません。

死亡者数は、過去10年でせいぜい2万人程度増加しているだけです。全国に約2000ある市町村の数で割れば、「1市町村あたり10人ぐらい」死亡者数が増えているにすぎません。

別の角度から見てみましょう。もしツイートの内容が真実だとすれば、生花業界の市場規模は、死者数の増加に比例して増えているはずです。

こちらは、矢野経済研究所が発表した「フラワー&グリーンビジネス市場」の調査資料です。

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2775

このサイトを見ると、過去10年間で生花市場はほとんど横ばいか、微減しています。

ですから、このツイートは「大いに疑惑がある投稿」だと考えて、話半分で聞いておいたほうがいいかもしれません。

なぜ「話半分」で聞くことができたのか

私はこの投稿を見たとたんに「嘘っぽい」とすぐに気づくことができました。

その理由は、「死亡者数や生花市場の市場規模を事前に知っていたから」ではありません。

自分の過去の経験と知識から、「この投稿はどうも作り話のようだ」というセンサーが働いたためです。

私は以前、葬儀業界のコンサルティングに従事していました。葬儀業界とお花屋さんは隣接しているビジネスですから、時々お花屋さんのビジネスの状況を伺うこともありました。

そしてお花屋さんが、常人には恐れ多いほど難しいビジネスであることを知りました。

お花屋さんの扱う商品はすべて生もの。仕入れから販売まで、常に時間を争います。食品とは違い、加工して日持ちさせることも難しい。

しかも、お花の需要はプレゼント用途ばかりです。八百屋さんやスーパーのように「定期的に買いに来てくれる人」は全然いません。

さらに、スーパーやホームセンターのような集客力の強い店舗が次々と市場に乗り込んできています。

そうです。お花屋さんは、簡単そうに見えて、実はとんでもないほど難しい小売業なのです。

ですから、直感的に「嘘っぽいぞ」と勘づくことができました。

一度「嘘っぽい」と感じることができれば、投稿の中に隠れている「論理のほころび」にも気づくことができます。

  • 少子高齢化だからといって、花屋が大儲けできるほど人が死んでいるのだろうか?
  • 仮に花屋が儲かっているのだとしたら、市場も成長しているのだろうか?

そう思って調べてみると、答えは「NO」。花屋が大儲けできるほど死者数が増えているわけでもないですし、生花市場が伸びているわけでもないと判明したのです。

SNSの投稿を真に受けない方法

私は偶然にも花屋について、一般の方よりちょっとだけ詳しい知識を持っていました。

しかし、あなたにも、あなただけが詳しくて、深い知見のある領域を持っているはずです。

たとえばあなたの実体験から考えて、こんな話は「噓っぽい」のではないですか?

  • 専業主婦は、夫と子供を玄関で見届けた後、昼下がりまでずっとソファで寝転がってだらだらしている
  • 幸せな家庭は、全員タワーマンションに住んでいる
  • 働き方改革が進んでいるから、今はもう「1日12時間」も仕事をさせたり、休日に出社させたりする会社はみんな滅びた
  • いやいや、働き方改革なんて、中小企業には関係がない
  • 円安はまだまだ続く!近い将来、1ドル160円に到達する!もう日本を脱出しよう!

あなたが自分の得意な領域について、こんな主張を展開している人がいたら、「どうもこの人は嘘っぽい」と感じることでしょう。

でも、SNS上にはこのように、一見すると正しそうに見えるような主張が数えきれないほど投稿されているのです。そしてその発言の中心にいるのは、時としてあなたが好きなインフルエンサーかもしれません。

「あの人は有名なインフルエンサーだから」「あの人の発言はいつも当たっているから」という理由で、特定の人を信望することは、「噓っぽいセンサー」を弱めてしまいます。

最悪の場合には、事実と異なる情報に基づいて消費やサービスを購入したり、家族・友人・知人に迷惑をかけたりすることにもつながります。

あなたにとって「噓っぽい」と感じる投稿があるのとまったく同じように、あなたが詳しくない領域にもたくさんの「噓っぽい」投稿が大量に転がっています。

ですから、自分の詳しくない領域の情報は「玉石混交であり、ひょっとすると嘘かもしれない。自分の知識や経験と照らして、真実を判断することはできないだろうか」といったん呼吸を置くことがとても重要です。

コンサルタントが実践する「真贋の見抜き方」

私は「経営コンサルタント」という、何だかよくわからない仕事をしています。

経営コンサルタントとは、経営をするうえで便利な専門知識と専門技術を持っていて、経営者の悩みにアドバイスを送る仕事です。

経営判断をするうえで最も重要なのは「事実に基づくこと」。空想に基づいて会社の命運を握るような経営判断をすると、後で大変な事態を招きます(東芝は、自分にとって都合のいいストーリーを信じて海外の原発事業を購入し、最終的に上場廃止に追い込まれました)。

どうすれば事実を見抜けるか?

それは逆説的ですが、「知らなくていいことに深く立ち入らない」という姿勢を持つことです。

NHKや新聞が報じるニュース。SNSで話題になっていること。楽しそうなネットメディア、面白い記事を書いてくれるライター、最新ガジェットを次々とレビューするYouTuberたち。

果たして本当に、全部のニュースに目を通し、すべてについて真実か否かを判断する必要があるのでしょうか……おそらくメディア関係者を除いて、そんな人はほとんどいません。

かつてコンサルティング会社に勤めていた時、社内の人間で熱心に新聞を読んでいる人は一人もいませんでした。

業界関係のニュースや、法令の改正の情報などはチェックしていますが、それ以外は「話半分」で見ているのです。

なぜなら、そこに深く立ち入ったところで、自分の仕事やプライベートにほとんど影響がないことを知っているからです。

そして、自分と縁のない領域にあえて踏み込んでいくと、「知るべき情報」と「知らなくてもいい情報」の境界がなくなり、どちらも真偽を判定することが難しくなるからです。

フェイクニュースや詐欺のような広告がまん延するこの時代だからこそ、あえて「知らなくていいことに深く立ち入らず、本当に大切な事実だけに向き合う」という姿勢をあなたにお勧めしたいと思います。

この記事が、あなたの情報収集と分析の役に立てばうれしく思います。

ひょっとすると「知らなくてよかったこと」かもしれませんが……。