売上の方程式とは、株式会社船井総合研究所(船井総研)が長年提唱してきた売上計算の考え方である。

一般的な売上の計算式

通常、商品を販売する現場(店頭)では、売上を「売上=客数×客単価」として計算する。

一般的な売上の計算式

売上=客数×客単価

商品の価格と販売数量を掛け合わせ、その合計額を売上とする考え方である。この計算式は会計の世界では当たり前で、レシートも帳簿もすべてこの式で計算される。

ところが、この式に基づいて「売上を上げる施策」を考えることはできない。なぜなら、この式には「市場(マーケット)」の発想が欠けているからだ。

飲食店を例に考えるとわかりやすい。

売上を「売上=客数×客単価」という式でとらえると、売上を高めるには「客数を増やす」か「客単価を上げる」かのどちらかだとわかる。

しかし、同時に次のような疑問に直面する。

  • 「客数を増やす」といっても、それほどのニーズは存在するのか?
  • 「客単価を上げる」といっても、これ以上高めると客が減らないのか?
  • そもそもこの地域で店を経営している限り、これ以上の客が来ることはないのではないか?

こうした疑問は「市場(マーケット)」の問題である。「顧客ニーズがあるのか?」という観点がないまま売上を高める施策を考えようとするため、このような疑問に直面してしまう。

船井流「売上の方程式」

船井総研が提唱する「売上の方程式」は、売上の計算に「市場(マーケット)」という考え方を導入し、売上の分析と目標設計を可能にしたものである。

その式は以下の通り。

売上の方程式

売上=マーケットサイズ×商圏人口×シェア

この式は、売上を「市場全体に対して何パーセントのシェアを獲得しているか」をあらわす指標としてとらえる。

たとえば、ある店舗の周囲に1億円の市場があるとき、そのうち10%のシェアを獲得すれば、店の売上は1千万円となる。

シェアとは、市場全体のうち特定の商品が占める割合のことである。

商圏人口

商圏人口とは、店舗の商圏(営業エリア)内に住んでいる人口のことである。

消費者は日々の買い物を家や職場の近くで済ませる。そのため、店舗を中心とした一定範囲に消費者が集中して滞在している。住宅地では住民の数が商圏人口となり、オフィス街では昼間人口が商圏人口に該当する。

一般的に、店舗経営を成立させるには少なくとも数万人の商圏人口が必要だ。それより人口が少ない地域では、店舗経営が成り立たない。

めかるたくや

沖縄の山間集落では「共同売店」と呼ばれる店舗を見かけることがあります。これは、人口があまりに少ない地域では消費者の購入だけで経営を維持できないため、地域住民が出資しあってコストを補っているのです。

マーケットサイズ

マーケットサイズとは、「(年間の)一人あたり消費額」を意味する船井総研の造語である。

国民一人が1年間でその商品にいくら支払っているのかを表す。

例えば、ある商品の市場規模が国内全体で1億2000万円のとき、一人あたり消費額は1億2000万円を全人口1億2000万人で割って、1円と計算できる。

同様に計算すれば、国内全体で1200億円の市場規模がある商品の一人あたり消費額は1000円となる。

マーケットサイズと商圏人口

マーケットサイズは一人あたり消費額、商圏人口は商圏内の滞在者数を指す。この二つを掛け合わせると、市場規模が算出できる。

市場規模の算出

市場規模=マーケットサイズ×商圏人口

  • 市場規模=マーケットサイズ×商圏人口

つまり、売上の方程式は「市場規模」を「マーケットサイズと商圏人口の掛け算」に分解したものといえる。

売上の方程式

売上=マーケットサイズ×商圏人口×シェア

この式は、会計用の式「売上=客数×客単価」よりも戦略作りに適している。市場(マーケット)を数値化し、式の中に組み込むことができるからだ。

売上の方程式の活用

売上の方程式は、売上を上げるための戦略や施策を考える際に役立つ。

売上の方程式

売上=マーケットサイズ×商圏人口×シェア

この式では市場規模(=マーケットサイズ×商圏人口)を前提としている。市場規模は一店舗の努力で改善できることに限りがある。流行や生活水準の高まり、生活様式の変化といった外部要因に大きく左右されるからだ。

したがって、売上を高めるために店舗が努力すべきは「シェアを高めること」である。この式を見れば、それが一目でわかる。

シェア

シェアとは、市場全体に占める自店舗(または他店舗)の売上の割合である。売上の方程式において、シェアは唯一、自店舗の努力で動かせる指標だ。

シェアは原則として「競合との奪い合い」という性質を持つ。たとえば、同じ商圏内にある競合店が自店よりもはるかに大きな規模を持ち、その経営規模を武器に大量の販売促進を行えば、自店にとって大きな脅威となる。このとき、競合は自店のシェアを奪っていることになる。

逆に、自店よりも小さな店舗の販売促進を狙い撃ちし、無効化することもできる。

シェアの拡大

売上を拡大するには、シェアの拡大が必要だ。シェアを拡大する基本戦略は大きく二つある——「専門性」と「規模」である。

自店より大きな規模の店に対しては、専門性で「とがる」

専門性は差別化において最も重要な発想の一つだ。専門性を持つことで、消費者に信頼感を与えることができる。

たとえば、一般的なホームセンターにはバットやボール、グローブなどさまざまな野球用具が販売されているが、どれも大衆娯楽用途に限られる。一方、スポーツ専門店で販売されている野球用具は、プロの用途に合わせて細かな工夫が施された高額なものが多い。消費者はスポーツ専門店の「専門性」というアピールに対して、「品ぞろえの良さ」「自分にぴったりの商品が見つかる安心感」「高額な専門用具を購入する高揚感」を覚える。

大規模な店舗になるほど「専門性」という印象は消え、「大衆向け」という印象が強まる。したがって「専門性」を突き詰め、尖らせ、専門領域で競合を圧倒する戦略は有効である。

自店より小さな規模の店に対しては、規模で「包み込む」

小規模の店は「専門性」という武器を使って、大規模の店に対抗を見せる。当然、自店も自店より小さな競合から同様の戦略で客を奪われる危険がある。そこで重要になるのが「包み込み」という発想だ。小さな競合の追随を許さないために、競合のさまざまな施策を細かく情報収集し、模倣して攻撃を無効化する。

これは一見「弱いものいじめ」の戦略のように映るかもしれないが、そうではない。自店のほうが規模が大きく、小さな競合店に比べてより多くの顧客のニーズに応えることができる。それは最終的に、顧客の利益にも結び付く。

小さな競合店がひしめき合う経済環境は非効率であり、顧客は不当に高いコスト(商品の価格、膨大な選択肢から探す精神的コストなど)を払わされる。そうした状態を防ぐためにも、競合店の出現を抑制することが顧客のためになると考えることができる。

シェア理論

シェア理論とは、市場シェアが何パーセントのとき、その市場に対してどの程度の影響力を持つかを示す表である。「ランチェスター戦略」という経営戦略の考え方と、コンサルタントの経験則に基づいて作られた。

たとえば、シェアが26%程度あれば、その店が市場全体に与える影響は非常に大きく、「圧倒的地域一番店」と呼ばれる。この表を参考にすれば、自店や競合店が市場でどのようなポジションにあるか客観的に把握できる。また、自店の売上目標を立てる際にも有効な指針となる。

参考文献

船井流「数理マーケティング」の極意(岡聡・船井総合研究所)

投稿者プロフィール

銘苅拓也(めかるたくや)
銘苅拓也(めかるたくや)出店戦略コンサルタント
船井総研出身の経営コンサルタント。前職では葬儀社を対象に「家族葬専用式場」の出店を全国で後押し。事業戦略の立案からプロモーションの実行まで一貫した支援で総額数十億円の売上に貢献した。 独立後は、「100年続く事業をつくる」を理念に掲げ、幅広いサービス業の売上・利益・生産性向上を支援する。戦略や計画のみならず、チラシ・WEB・テレビCMなどのプロモーション施策を網羅し、特性に合わせて提案できる全国的にも希少なコンサルタント。